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「セルフ・コンパッション あるがままの自分を受け入れる」クリスティーン・ネフ著 ~知ったこと、感じたこと
セルフ・コンパッションは、自分に向ける慈悲・思いやりです。
慈悲は、苦しんでいる人へ向けるやさしさ、受容、思いやりの感情や態度です。
普通、慈悲は他者へ向けられるものと理解されています。
その慈悲を「苦しんでいる自分」に向けるというのです。
私たちの日常には、様々な出来事が起こります。
いいことばかりとは限りません。
逆境に会うときもあります。
そんなネガティブな状況を嘆き、自分の無力さを嫌悪し、自分を責めたり、孤独感を味わったりします。
しかし、著者は「人間であることは、他者よりすぐれていなければならないことを意味するものではありません」と言います。
「セルフ・コンパッションが、健康とウェル・ビーイングを高めるポジティブな感情を生み出す」ものであるといいます。
セルフ・コンパッションを実践することで、あなたの中に、変化を起こします。
セルフ・コンパッションの3つの構成要素
要素1.自分自身に、やさしさと思いやりを向ける
「人間の不完全さ」に対して取る態度として、二通りの方法があるといいます。
優しさと思いやりを伴ったやり方と、判断と批判を伴ったやり方です。
「私たちの脳や体には、思いやりを授受する生得的な能力が備わっている」といいます。
生存するには、闘争に勝ち抜くことだけではありません。
人間が持つ「仲良くなろうとする」本能を忘れてはいけません。
愛情と相互の繋がりを感じる能力が、私たちが生存していく上で機能しているということです。
私たちの脳は、自分や他者を思いやるように設計されているのです。
愛情と繋がりの中で生きることは、人間の生得権であるといいます。
要素2.つらく苦しい経験は、だれもみなは同じように経験している
人は完璧ではないということを、受け容れることが始まりです。
「人間であるから、自分は完璧ではなく、他人も完璧ではない」ということが、私たちの共通した認識であり、それを忘れてはいけないといいます。
完璧でないから価値がない、ということではありません。
自分が無価値であると感じることは、他者から分離され、人生から分離していると感じることと関連しているといいます。
完璧でないから、成長と学習が可能になるということでもあります。
そして、人は完璧ではないという思いが、他者との必要な繋がりの感覚を与えてくれるものなのです。
要素3.マインドフルな認識のもとで、思考と感情を保つ
現実を認めることが、大事です。
「自分自身に慈悲の心を向けるためには、まず自分が苦しんでいることに気づかなければならない。感じることのできないものを、癒すことはできないからである。」
苦しみを否定しないで、認めることが大切なのです。
そのためには、「今、ここで感じる」という感覚が必要になります。
これが、マインドフルネスです。
苦しみ=苦痛 × 抵抗 であると、いっています。
人は現実と理想を比較して、現実が望みや欲望と合致しない場合、苦しみます。
「私たちの感情的な苦しみは、現実を変えたいという欲望によって生まれる。現在、起こっていることを拒絶すれば拒絶するほど、私たちの苦しみは大きくなる」のです。
マインドフルネスは、現実に対して抵抗することはなく、苦痛に対してマインドフルな方法で取り組みことを求めています。
マインドフルネスは、特別で難解な方法ではないといいます。
それは、自らの意識を意識するための、すべての人に生得的に備わっている能力なのです。
記載されているマインドフルネスのエクササイズを、実際やってみることをお勧めします。
セルフ・コンパッションのマントラ
書著の中のエクササイズです。
<セルフ・コンパッションのマントラ>
声に出して唱えてみると、気持ちが落ちつきます。
「今は苦しみのときである。
苦しみは人生の一部である。
今、自分に優しくしてもいいだろうか。
必要とされる慈悲の心を、自分に向けてもいいだろうか。」
ネガティブな感情と向き合うときに、唱えます。
自分なりにフレーズを変えてみても良いでしょう。
セルフ・コンパッションと子どものしつけ
子どもをどうしつけたらよいか、悩みます。
子どもを厳しく批判しない、親の期待に沿わなかったことに対して、恥を感じさせないことが大切だといいます。
親の継続的な批判を受けて育った子どもは、大人になってから不安や抑うつに悩まされる傾向があるといいます。
「子どもは親の批判的な言葉を内なる声として内面化し、生涯にわたってその言葉に悩まされる。」のです。
セルフ・コンパッションを育児に取り入れる効用を、次のように言っています。
子どもたちの”悪行”に対して慈悲の心を持って対処すると、子どもたちは非難されているのではなく、理解されていると感じます。
セルフ・コンパッションで育児することは、子どもに対しても慈悲の心を持てるし、親自身余裕のある心でいられるといいます。
セルフ・コンパッションとセルフ・アプリシエーション
最後の章では、セルフ・アプリシエーションという考え方が紹介されています。
自分の長所を素直に認める、ということです。
私たちは、自分のいいところに目を向けるということが、少ないのではないでしょうか。
自分に対して優しさを向けたら、自分の良い性質を喜ぶことができるといいます。
セルフ・アプリシエーションは、他者の良い性質や状況に対して喜んだときに起こる「共感的な喜び」に似ているといいます。
人との繋がりを自覚することで、共感的な喜びを感じることができます。
セルフ・アプリシエーションとセルフ・コンパッションは、同じコインの表と裏のような関係にあります。
前者は喜びに、後者は苦しみに、焦点を当てているということです。
人生でどういう出来事が起こるかが大事ではなく、その出来事に対してどういう態度を取るのかが重要だといいます。
ウェル・ビーイングであるためには、感謝することが大切です。
「感謝が他者、神、生命から贈り物を得ていることに気づいて理解すること」
「感謝する人は自分の人生に対してより幸福を感じ、希望を持ち、快活で、満足している」からです。
そして、判断を介さずに「今」に気づくことの大切さを語っています。
「常に物事を評価したり、何かと比較したり、拒絶したり、心配したり、歪曲することなく、ありのままの世界に対して心と意識を開くのである。」と。
「人間として、生きることの喜びと悲しみを受け入れることで、私たちは人生を変えることができる。」
と結んでいます。
著者は、セルフ・コンパッションの研究者であると同時に、実践者であることがわかります。
筆者は、夫婦間でのいさかいが起こったとき、セルフ・コンパッションの時間を取るため、喧嘩を中断することがあるようです。
その時間、自分に慈悲の心を向け心を調えると、相手への態度が変わるといいます。
自閉症の息子ローワンとのモンゴル旅行では、「私とルーバートがモンゴルで学んだことは、ローワンの自閉症を真に受け止め、それと戦うことをやめることだった」と振り返っています。
また、著者の周りにいる人たちが、セルフ・コンパッションで変化する様子もおもしろいものでした。
それぞれの章にエクササイズが載っていますので、実践されることをお勧めします。
エクササイズをやると、知識だけでなく、感覚が活性化される感じです。
セルフ・コンパッションは、普段の生活に取り入れられる生きた手法だといえます。
お読み頂きありがとうございました。